「続・アメフラン物語」 -第3章【大いなる光】-
「続・アメフラン物語」 -第3章【大いなる光】-
【バルガスの回想】
馬上のアメは、バルガスとの別れ際に、いつもの口癖でこう言った。
アメ [42]
「あ、そうだ。
行き先は、誰にも言わないで…。
ラルフも…、ボクのやり方が気に食わなかったんだろう。
あとの事は、“仲間”に任せる。
彼らの好きなようにすればいいんだ…。」
バルガスは、アメの背中と言葉から、彼の寂しさを感じ取っていた。
バルガス [40]
『わかった。 …元気でな。 お前さんの仲間に、行き先は告げないよ。』
アメ [43]
「必ず…、約束は守るからな。^^ノ」
バルガス [41]
『…もし、オレに何かあった時は…。』
アメはバルガスが言おうとした所へ、
アメ [44]
「バルガス! もうひとつ、約束してくれないか?」
バルガス [42]
『なんだ?』
アメ [45]
「生きていてくれ。 わたしとバルゴちゃんが帰るまで^^」 アメは足の痛みを我慢して、笑顔を作ってみせた。
バルガス [43]
『…ああ、約束だ。 娘を…、よろしく頼む。』
アメ [46]
「約束だ。」 バルガスの涙に応えるように、アメは優しく笑顔でうなづいた。
アメは振り返る事なく、急ぐように馬を走らせた。
そしてバルガスは、シェディー達を見送った後、
バルガス [44]
『本当に伝えなくて良かったのだろうか…。 でも、いい奴らだったな…。』
アメはバルガスと別れた後、背後から迫る夕闇から逃げようと、しばらく馬を走らせた。
我慢していた右足の痛みは、時間が経つにつれ、
アメの心のダメージと重なるようにし、増大していった…。
そして、遂には痛みに耐え切れず、最後の力を振り絞り、馬に座るように指示した。
アメは転げるように馬から降り、地面に寝転がった。
しばらくすると、辺りは暗闇に覆われた。
アメは足の痛みのため、意識を失う事も、寝ることも、移動する事も出来ずに、ただじっとしているしか無かった。
ここがどこなのかさえ分からない。 周囲の様子も、真っ暗闇の中では何が有るのかさえ分からない。
アメは松明(たいまつ)代わりに、魔法で光の玉を出す事はできるが、
悪者に見つかってしまう可能性が有るため、
自分の事は元より、仲間の命も心配して、使う事が出来なかった。
アメは痛みの中、ある人物の笑顔を思い出していた…。
______________________________________________
【アメの回想】
数年前の雨の日。
ギルドの定例会へマスターと同席するため、隣町へ向かう道中、
道の脇で、雨具も身に付けずに倒れている2人組を見つけた。
アメ達は慌てて駆け寄ると、2人は大ケガをしていて、全身ボロボロだった。
どうやら2人とも女のようで、エルフと人間のようだ。
アメ [47]
「大丈夫か!? おい! 大丈夫か!?」
かすかに反応したのはエルフの女だった。
エルフの女 [1]
「どうか、この子だけでも助けて下さい…。」
彼女は全身にケガを追っているにもかかわらず、人間の女を助けて欲しいと嘆願してきた。
可愛そうな事に…、2人とも、顔中が傷だらけだった。
助けを求める彼女の瞳からは、涙が溢れていた。
雨のせいで顔が濡れていて、一見、涙か雨かは見分けはつかないが、
アメにはそれが、涙だという事が一目で分かった。
アメは、エルフの心からの願いを、真っ直ぐに受け止めていた。
アメ [48]
「オヤジ! 頼む!」
マスター :シド[8]
『わかっておる。』
司祭であるマスターは、彼女達の状態を見るとすぐに、魔法を唱えるための精神集中を行っていた。
回復魔法を唱えると、2人は見る見るうちに元気になっていった。
2人は驚きのあまり、しばらく声を失っていた。
エルフの女 [2]
「あ、ありがとうございますTT」
人間の女 [1]
「わぁ!ありがと~^^」
アメ [49]
「いったい、どうしたんだ?」
エルフの女 [3]
「この子は、ある理由で…。」
エルフの女は、嫌な事でも思い出したのだろうか? 突如、悲しげな表情となり、しばし言葉が途切れたが、
彼女は続けて言った。
エルフの女 [4]
「…全身を殴られました。
道すがら、何人かの人に助けを求めましたが…、
私達の姿を見ると恐くなったのか、誰も助けてくれませんでした…。
泊めてくれる宿も、お金もありません…。」
どうか、この子だけでも、今晩泊めてあげて下さいませんか?」
涙ながらに訴える彼女を見て、アメは迷いなく答えた。
アメ [50]
「うちのギルドに行こう。 オヤジ、ぼくは彼女達を連れて帰る。」
マスター:シド [9]
『ああ、もちろん、君達を放っておく訳にはいかん。
2人ともだいぶ弱っておる。 体の方じゃなく…、心の方だ。 うちでゆっくりさせてやれ。』
アメ [51]
「ああ、済まないな、オヤジ。 一緒に行けなくて。」
マスター:シド [10]
『わしの事はどうでも良い。 2人を助けてやれ。 あとの事は、ギルドリーダーのお前に任せる。』
エルフの女 [5]
「あ、あのぅ…。」
女は、しばらく涙ぐんで言いたい事が言えずにいた。
マスター :シド [11]
『わかっておる。 私もキミと同じ種族だからな。 キミの言いたかった言葉は、心に届いておるよ^^』
マスターは自分の左胸を右の拳で叩き、安心した笑顔を彼女に見せた。
人間の女 [2]
「あ、え~っと。 あたしはジュエルです。 こっちは夏美さんです。 本当に、ありがとうございました。」
ジュエルと夏美は深々と頭を下げ、マスターにお礼を言った。
ジュエルの手には、大ケガをしてもなお、握り続けていた物があった。
マスター:シド [12]
『困っている者を見て、放っておく奴なんぞ、うちのギルドにゃ~おらんよ^^ じゃあ、行ってくるぞ。』
マスターはそう言って、1人、定例会へ向けて歩きだした。
ジュエルと夏美は、再び深々と頭を下げ、ずっとずっと…、マスターを見送っていた。
夏美 [59]
「いい人って、いるもんなんですね^^」
この時だった。 アメが初めて見た、夏美の心からの笑顔は。
顔にはまだ、傷と血と、土と雨が残っていたが、アメの心に深く深く…、残る笑顔だった。
_______________________________________________
アメ [52]
「ふふ、やっぱり、忘れられないな、あの笑顔は^^ 今まで生きた中で、一番の笑顔だったな~。」
アメは昔の事を思い返す事で、心の痛みをも和らげようとしていた…。
だが、足の痛みは和らぐ事なく続き、アメは苦しんでいた。
遠くで明かりが灯っている。
どうやら、松明のようだ。
アメは、見つかるまいと、自然と身構えたが、遥か遠くの明かり、そしてここは暗闇…。
身構える必要など無い事に気付き、ふと我に返った。
アメの目は、次第に暗闇から慣れてきていた。
今宵は満月で雲も少なく、月明かりが優しく地面を照らしていた。
アメ [53]
「少しでも進まないと…。」
アメの気力は尽きていなかった。
杖を取り、松葉づえにして、一歩ずつ歩きだした。
馬も起き上がり、ゆっくりとアメの後ろを着いて来ていた。
この馬はいつもアメが世話している馬で、アメには従順だった。
一方、シェディー達は各ギルドへと向かっていたのだが…
出発前、村の屋敷でシェディーは、夏美に聞えないように、こももにあるお願いをしていた。
シェディー [84]
『夏美さんの願いを叶えてやって下さい。
オレはどうしてもギルドに戻らないといけません。
お願いできるのは、こももさんだけなんです。』
こもも [71]
「わたしも、今じっくり考えると…、なっちゃんの方が正しかったのかな~と思う。
“今行かないと間に合わない” …実際、そうなってしまう可能性は高いのかもしんない。
…残念だけど、ここでお別れかもね…。 でも、なっちゃんの事は、わたしにまかせて^^」
シェディー [85]
『ありがとうございます!』
こもも [72]
「お礼はいらない。 なっちゃんかジュエルさんがいれば、何にもいらなんだからw」
シェディー [86]
『増えてるーw』
こうして4人はギルドへ向けて出発し、
ジュエルや夏美が気付かないうちに、こももは進路を変更していた。
ジュエル [69]
「あれ?? 居ないっ!!」
ジュエルは振り返って見ると、後ろを走っているはずだった、こもも達が居ないのに気付いた。
ジュエル [70]
「ちょっとー! みんな居ないよーっ!!」
シェディー [87]
『オレがお願いしたんだ。 こももさんに。』
ジュエル [71]
「そうだったんだ…。」
シェディー [88]
『オレだって、アメを探したかったよ…。
でも、アメの手紙を見て、気付いたよ。 今オレがすべき事を。』
ジュエル [72]
「ギルドのみんなを守る事だね。」
シェディー [89]
『…オレは、束縛されるのが嫌いで、どこのギルドに入っても、みんなと馴染めずに、
すぐに他のギルドへ移ったり、傭兵の時もあった…。 これは、人に初めて話すんだけどな…。』
ジュエル [73]
「うん」
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
シェディー [90]
『オレは親父を早くに亡くし、ずっとおふくろに育てられてきた。
でも、女手ひとつじゃ稼ぎが少なくてな…。 それでもオレには、お腹一杯食べさせてくれた…。
おふくろは朝早くから夜遅くまで、一生懸命に働いて、オレを育ててくれた…。
オレがこの仕事をしてからも、オレがこんなだし…、
人間だからって差別されて…、あんまり稼げなくて…、親孝行できなくてな…。
そんな時に…、このギルドを見つけたんだ。』
“チームワーク最優先ギルドへようこそ。君の思いやりが光となる!仲間とわいわい楽しくやろう♪”
シェディー [91]
『この勧誘文を見た時、最初は“めずらしいとこだな~、でも実際はどうなんだろうな?”
と思って、ずっと外から眺めてたら…。 マスターが出てきてな、
“お主、うちのギルドに興味があるのかな? ちと面接でも受けてみるか?”
会って早々、面接しないかだってw 何も言ってないのに、めずらしいだろ?w』
ジュエル [74]
「そーなんだw あたしん時はそんなの無かったよ~w (夏美さんと一緒に、すぐに許可してくれた^^)」
シェディー
『マスターがな…、“君の悩みを言ってみなさい”っていきなり聞くんだよw
“お金が欲しいです”って言ったら、
マスターは、“ちがう”って言うんだw』
ジュエル [75]
「へ~」
シェディー [92]
『(え? ちがうったって…w)
“お金が欲しいじゃダメなんですか?” って聞くと…、
“なぜ、お金がいるんだ?” って聞かれて、
“…おふくろが病気なんだ”って言うと、
“わかった。 じゃあ、君の夢はなんだ?”って聞かれて、
“…おふくろの幸せだ”って言ったら、
“面接は以上。 …今日はこれを持って帰りなさい。 明日から君は、このギルドの一員だ。”
って言われて、お金をくれたんだ。』
ジュエル [76]
「お、お金… ゴクリw」
シェディー [93]
『w
“なんで、初めて会ったオレにこんな大金を…。 このまま逃げるかもしんないよオレ。”
って言うとマスターは、
“逃げても構わんよ、お前の母さんが助かるなら。 それでいいじゃないか…。
それに君の目を見れば、嘘じゃない事は分かる。” そう言ってくれたんだ…。』
ジュエル [77]
「えっ! すごいなぁ…。」
ジュエルの瞳からは、自然と涙がこぼれていた。
シェディー [94]
『オレは、その言葉を聞いて、うつむいて…、しばらく何も言えずに、ずっと泣いてた。
一言 “ありがとう” って言えば良かったんだろうが…、何も言えなかった。
“ありがとう”だけじゃ足りないよ…、それ以上の言葉って一体何なんだよ…?
って、ずっと言葉を探してた。 でも見つからずに…、どんどん涙が溢れ出した。
こんなに温かくしてくれる大人が…、おふくろ以外にも居たんだなと思った。
肩で泣いてたオレに、そっと手を当て…。』
“世の中には、お金以上に、もっともっと大切なモノがある。
家族、仲間。 …見えないモノもあるんだぞ。 それは…、思いやり。
君は既にそれを持っている。 それを表に出してけば、おのずと仲間はできる。
今日から君は、わたしの家族だ。
さあ、泣きたい時は、恥ずかしがらずに、思いっきり泣けばいいんだよ。
人は、自分の弱さを見せる事で、強くなれる。 さあ、顔を上げて泣きなさい^^”
シェディー [95]
『オレは、その日に、結局お礼も言えず、立ち去ってしまった。
次の日、オレがギルドに行くまでは、大騒ぎになってたみたいだった。』
“え? マスターはその初めて会った男にそんな大金を挙げたの?”
“マスター、お人好しにも限度があるぜ~”
“名前も住所も聞かない面接ってどこにあんだよーw”
でも、マスターはオレを信じていてくれた。
“大丈夫じゃよ。 彼はきっと、ここに戻ってくるよ。”
シェディー [96]
『はーはー。 遅くなりました。
“おかげ様でおふくろは入院できました。 ありがとうございました。” ってお礼を言ったんだ。
そしたら…。』
“礼は昨日受け取ったんだけどな^^ 君は言葉じゃなく、態度で示してたんだよ。
気持ちがこもっていれば、言葉なんぞいらない時もある。
ただ、言葉だけ「ありがとう」って言ってもらうよりも、
その溢れ出た涙の分だけ、感謝の想いが出ておったよ。 おふくろさんを大事にしなさい^^”
シェディー [97]
『オレは、そん時もまた大泣きしちまってな…w
でも今度は、顔を上げて泣いてたんだよな^^
でもギルドのみんなが、そのあとオレに話しかけてくれてな。 もちろんアメもなw
みんなおかしな奴らでな、オレと一緒になって泣いてくれてんだ…。 おかしいだろ…TT
オレは、もうどこにも行かないって決めたんだ。
そして、一生、マスターについて行こうと思った。
だからこのギルドは、オレとおふくろを助けてくれた恩あるギルド。 オレの全てなんだ。』
ジュエルは、シェディーと一緒に泣いていた。
ジュエル [78]
「あたしもね…、実はマスターに助けてもらったんだ。
夏美さんから聞いた話なんだけどね…、誰かに話すのは初めてなの。」
知らないうちに、辺りは闇に包まれ、シェディーは、ゆっくりと馬を歩かせ、
ジュエルはシェディーに話を聞かせながら、2人、ギルドへと向かった。
RAM WIRE 「きぼうのうた」
【バルガスの回想】
馬上のアメは、バルガスとの別れ際に、いつもの口癖でこう言った。
アメ [42]
「あ、そうだ。
行き先は、誰にも言わないで…。
ラルフも…、ボクのやり方が気に食わなかったんだろう。
あとの事は、“仲間”に任せる。
彼らの好きなようにすればいいんだ…。」
バルガスは、アメの背中と言葉から、彼の寂しさを感じ取っていた。
バルガス [40]
『わかった。 …元気でな。 お前さんの仲間に、行き先は告げないよ。』
アメ [43]
「必ず…、約束は守るからな。^^ノ」
バルガス [41]
『…もし、オレに何かあった時は…。』
アメはバルガスが言おうとした所へ、
アメ [44]
「バルガス! もうひとつ、約束してくれないか?」
バルガス [42]
『なんだ?』
アメ [45]
「生きていてくれ。 わたしとバルゴちゃんが帰るまで^^」 アメは足の痛みを我慢して、笑顔を作ってみせた。
バルガス [43]
『…ああ、約束だ。 娘を…、よろしく頼む。』
アメ [46]
「約束だ。」 バルガスの涙に応えるように、アメは優しく笑顔でうなづいた。
アメは振り返る事なく、急ぐように馬を走らせた。
そしてバルガスは、シェディー達を見送った後、
バルガス [44]
『本当に伝えなくて良かったのだろうか…。 でも、いい奴らだったな…。』
アメはバルガスと別れた後、背後から迫る夕闇から逃げようと、しばらく馬を走らせた。
我慢していた右足の痛みは、時間が経つにつれ、
アメの心のダメージと重なるようにし、増大していった…。
そして、遂には痛みに耐え切れず、最後の力を振り絞り、馬に座るように指示した。
アメは転げるように馬から降り、地面に寝転がった。
しばらくすると、辺りは暗闇に覆われた。
アメは足の痛みのため、意識を失う事も、寝ることも、移動する事も出来ずに、ただじっとしているしか無かった。
ここがどこなのかさえ分からない。 周囲の様子も、真っ暗闇の中では何が有るのかさえ分からない。
アメは松明(たいまつ)代わりに、魔法で光の玉を出す事はできるが、
悪者に見つかってしまう可能性が有るため、
自分の事は元より、仲間の命も心配して、使う事が出来なかった。
アメは痛みの中、ある人物の笑顔を思い出していた…。
______________________________________________
【アメの回想】
数年前の雨の日。
ギルドの定例会へマスターと同席するため、隣町へ向かう道中、
道の脇で、雨具も身に付けずに倒れている2人組を見つけた。
アメ達は慌てて駆け寄ると、2人は大ケガをしていて、全身ボロボロだった。
どうやら2人とも女のようで、エルフと人間のようだ。
アメ [47]
「大丈夫か!? おい! 大丈夫か!?」
かすかに反応したのはエルフの女だった。
エルフの女 [1]
「どうか、この子だけでも助けて下さい…。」
彼女は全身にケガを追っているにもかかわらず、人間の女を助けて欲しいと嘆願してきた。
可愛そうな事に…、2人とも、顔中が傷だらけだった。
助けを求める彼女の瞳からは、涙が溢れていた。
雨のせいで顔が濡れていて、一見、涙か雨かは見分けはつかないが、
アメにはそれが、涙だという事が一目で分かった。
アメは、エルフの心からの願いを、真っ直ぐに受け止めていた。
アメ [48]
「オヤジ! 頼む!」
マスター :シド[8]
『わかっておる。』
司祭であるマスターは、彼女達の状態を見るとすぐに、魔法を唱えるための精神集中を行っていた。
回復魔法を唱えると、2人は見る見るうちに元気になっていった。
2人は驚きのあまり、しばらく声を失っていた。
エルフの女 [2]
「あ、ありがとうございますTT」
人間の女 [1]
「わぁ!ありがと~^^」
アメ [49]
「いったい、どうしたんだ?」
エルフの女 [3]
「この子は、ある理由で…。」
エルフの女は、嫌な事でも思い出したのだろうか? 突如、悲しげな表情となり、しばし言葉が途切れたが、
彼女は続けて言った。
エルフの女 [4]
「…全身を殴られました。
道すがら、何人かの人に助けを求めましたが…、
私達の姿を見ると恐くなったのか、誰も助けてくれませんでした…。
泊めてくれる宿も、お金もありません…。」
どうか、この子だけでも、今晩泊めてあげて下さいませんか?」
涙ながらに訴える彼女を見て、アメは迷いなく答えた。
アメ [50]
「うちのギルドに行こう。 オヤジ、ぼくは彼女達を連れて帰る。」
マスター:シド [9]
『ああ、もちろん、君達を放っておく訳にはいかん。
2人ともだいぶ弱っておる。 体の方じゃなく…、心の方だ。 うちでゆっくりさせてやれ。』
アメ [51]
「ああ、済まないな、オヤジ。 一緒に行けなくて。」
マスター:シド [10]
『わしの事はどうでも良い。 2人を助けてやれ。 あとの事は、ギルドリーダーのお前に任せる。』
エルフの女 [5]
「あ、あのぅ…。」
女は、しばらく涙ぐんで言いたい事が言えずにいた。
マスター :シド [11]
『わかっておる。 私もキミと同じ種族だからな。 キミの言いたかった言葉は、心に届いておるよ^^』
マスターは自分の左胸を右の拳で叩き、安心した笑顔を彼女に見せた。
人間の女 [2]
「あ、え~っと。 あたしはジュエルです。 こっちは夏美さんです。 本当に、ありがとうございました。」
ジュエルと夏美は深々と頭を下げ、マスターにお礼を言った。
ジュエルの手には、大ケガをしてもなお、握り続けていた物があった。
マスター:シド [12]
『困っている者を見て、放っておく奴なんぞ、うちのギルドにゃ~おらんよ^^ じゃあ、行ってくるぞ。』
マスターはそう言って、1人、定例会へ向けて歩きだした。
ジュエルと夏美は、再び深々と頭を下げ、ずっとずっと…、マスターを見送っていた。
夏美 [59]
「いい人って、いるもんなんですね^^」
この時だった。 アメが初めて見た、夏美の心からの笑顔は。
顔にはまだ、傷と血と、土と雨が残っていたが、アメの心に深く深く…、残る笑顔だった。
_______________________________________________
アメ [52]
「ふふ、やっぱり、忘れられないな、あの笑顔は^^ 今まで生きた中で、一番の笑顔だったな~。」
アメは昔の事を思い返す事で、心の痛みをも和らげようとしていた…。
だが、足の痛みは和らぐ事なく続き、アメは苦しんでいた。
遠くで明かりが灯っている。
どうやら、松明のようだ。
アメは、見つかるまいと、自然と身構えたが、遥か遠くの明かり、そしてここは暗闇…。
身構える必要など無い事に気付き、ふと我に返った。
アメの目は、次第に暗闇から慣れてきていた。
今宵は満月で雲も少なく、月明かりが優しく地面を照らしていた。
アメ [53]
「少しでも進まないと…。」
アメの気力は尽きていなかった。
杖を取り、松葉づえにして、一歩ずつ歩きだした。
馬も起き上がり、ゆっくりとアメの後ろを着いて来ていた。
この馬はいつもアメが世話している馬で、アメには従順だった。
一方、シェディー達は各ギルドへと向かっていたのだが…
出発前、村の屋敷でシェディーは、夏美に聞えないように、こももにあるお願いをしていた。
シェディー [84]
『夏美さんの願いを叶えてやって下さい。
オレはどうしてもギルドに戻らないといけません。
お願いできるのは、こももさんだけなんです。』
こもも [71]
「わたしも、今じっくり考えると…、なっちゃんの方が正しかったのかな~と思う。
“今行かないと間に合わない” …実際、そうなってしまう可能性は高いのかもしんない。
…残念だけど、ここでお別れかもね…。 でも、なっちゃんの事は、わたしにまかせて^^」
シェディー [85]
『ありがとうございます!』
こもも [72]
「お礼はいらない。 なっちゃんかジュエルさんがいれば、何にもいらなんだからw」
シェディー [86]
『増えてるーw』
こうして4人はギルドへ向けて出発し、
ジュエルや夏美が気付かないうちに、こももは進路を変更していた。
ジュエル [69]
「あれ?? 居ないっ!!」
ジュエルは振り返って見ると、後ろを走っているはずだった、こもも達が居ないのに気付いた。
ジュエル [70]
「ちょっとー! みんな居ないよーっ!!」
シェディー [87]
『オレがお願いしたんだ。 こももさんに。』
ジュエル [71]
「そうだったんだ…。」
シェディー [88]
『オレだって、アメを探したかったよ…。
でも、アメの手紙を見て、気付いたよ。 今オレがすべき事を。』
ジュエル [72]
「ギルドのみんなを守る事だね。」
シェディー [89]
『…オレは、束縛されるのが嫌いで、どこのギルドに入っても、みんなと馴染めずに、
すぐに他のギルドへ移ったり、傭兵の時もあった…。 これは、人に初めて話すんだけどな…。』
ジュエル [73]
「うん」
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
シェディー [90]
『オレは親父を早くに亡くし、ずっとおふくろに育てられてきた。
でも、女手ひとつじゃ稼ぎが少なくてな…。 それでもオレには、お腹一杯食べさせてくれた…。
おふくろは朝早くから夜遅くまで、一生懸命に働いて、オレを育ててくれた…。
オレがこの仕事をしてからも、オレがこんなだし…、
人間だからって差別されて…、あんまり稼げなくて…、親孝行できなくてな…。
そんな時に…、このギルドを見つけたんだ。』
“チームワーク最優先ギルドへようこそ。君の思いやりが光となる!仲間とわいわい楽しくやろう♪”
シェディー [91]
『この勧誘文を見た時、最初は“めずらしいとこだな~、でも実際はどうなんだろうな?”
と思って、ずっと外から眺めてたら…。 マスターが出てきてな、
“お主、うちのギルドに興味があるのかな? ちと面接でも受けてみるか?”
会って早々、面接しないかだってw 何も言ってないのに、めずらしいだろ?w』
ジュエル [74]
「そーなんだw あたしん時はそんなの無かったよ~w (夏美さんと一緒に、すぐに許可してくれた^^)」
シェディー
『マスターがな…、“君の悩みを言ってみなさい”っていきなり聞くんだよw
“お金が欲しいです”って言ったら、
マスターは、“ちがう”って言うんだw』
ジュエル [75]
「へ~」
シェディー [92]
『(え? ちがうったって…w)
“お金が欲しいじゃダメなんですか?” って聞くと…、
“なぜ、お金がいるんだ?” って聞かれて、
“…おふくろが病気なんだ”って言うと、
“わかった。 じゃあ、君の夢はなんだ?”って聞かれて、
“…おふくろの幸せだ”って言ったら、
“面接は以上。 …今日はこれを持って帰りなさい。 明日から君は、このギルドの一員だ。”
って言われて、お金をくれたんだ。』
ジュエル [76]
「お、お金… ゴクリw」
シェディー [93]
『w
“なんで、初めて会ったオレにこんな大金を…。 このまま逃げるかもしんないよオレ。”
って言うとマスターは、
“逃げても構わんよ、お前の母さんが助かるなら。 それでいいじゃないか…。
それに君の目を見れば、嘘じゃない事は分かる。” そう言ってくれたんだ…。』
ジュエル [77]
「えっ! すごいなぁ…。」
ジュエルの瞳からは、自然と涙がこぼれていた。
シェディー [94]
『オレは、その言葉を聞いて、うつむいて…、しばらく何も言えずに、ずっと泣いてた。
一言 “ありがとう” って言えば良かったんだろうが…、何も言えなかった。
“ありがとう”だけじゃ足りないよ…、それ以上の言葉って一体何なんだよ…?
って、ずっと言葉を探してた。 でも見つからずに…、どんどん涙が溢れ出した。
こんなに温かくしてくれる大人が…、おふくろ以外にも居たんだなと思った。
肩で泣いてたオレに、そっと手を当て…。』
“世の中には、お金以上に、もっともっと大切なモノがある。
家族、仲間。 …見えないモノもあるんだぞ。 それは…、思いやり。
君は既にそれを持っている。 それを表に出してけば、おのずと仲間はできる。
今日から君は、わたしの家族だ。
さあ、泣きたい時は、恥ずかしがらずに、思いっきり泣けばいいんだよ。
人は、自分の弱さを見せる事で、強くなれる。 さあ、顔を上げて泣きなさい^^”
シェディー [95]
『オレは、その日に、結局お礼も言えず、立ち去ってしまった。
次の日、オレがギルドに行くまでは、大騒ぎになってたみたいだった。』
“え? マスターはその初めて会った男にそんな大金を挙げたの?”
“マスター、お人好しにも限度があるぜ~”
“名前も住所も聞かない面接ってどこにあんだよーw”
でも、マスターはオレを信じていてくれた。
“大丈夫じゃよ。 彼はきっと、ここに戻ってくるよ。”
シェディー [96]
『はーはー。 遅くなりました。
“おかげ様でおふくろは入院できました。 ありがとうございました。” ってお礼を言ったんだ。
そしたら…。』
“礼は昨日受け取ったんだけどな^^ 君は言葉じゃなく、態度で示してたんだよ。
気持ちがこもっていれば、言葉なんぞいらない時もある。
ただ、言葉だけ「ありがとう」って言ってもらうよりも、
その溢れ出た涙の分だけ、感謝の想いが出ておったよ。 おふくろさんを大事にしなさい^^”
シェディー [97]
『オレは、そん時もまた大泣きしちまってな…w
でも今度は、顔を上げて泣いてたんだよな^^
でもギルドのみんなが、そのあとオレに話しかけてくれてな。 もちろんアメもなw
みんなおかしな奴らでな、オレと一緒になって泣いてくれてんだ…。 おかしいだろ…TT
オレは、もうどこにも行かないって決めたんだ。
そして、一生、マスターについて行こうと思った。
だからこのギルドは、オレとおふくろを助けてくれた恩あるギルド。 オレの全てなんだ。』
ジュエルは、シェディーと一緒に泣いていた。
ジュエル [78]
「あたしもね…、実はマスターに助けてもらったんだ。
夏美さんから聞いた話なんだけどね…、誰かに話すのは初めてなの。」
知らないうちに、辺りは闇に包まれ、シェディーは、ゆっくりと馬を歩かせ、
ジュエルはシェディーに話を聞かせながら、2人、ギルドへと向かった。
RAM WIRE 「きぼうのうた」
この記事へのコメント